巨大な木のうろの中で甲虫のような皮膚を持った4本腕の住魔、サイバの町長が黙々と事務仕事を処理していた。
サイバは木を使った通信技術が発達しているため木に触れるだけで情報の授受ができる。
町長は4本の腕を器用に使いあっちの木に触れ、こっちの蔓をつかみ、といった動作で街の政に関する案件を素早く処理していた。
ダダダッダダダッ
町長がうろの上部で作業をしていると、うろの入り口の方から動物型の獣が走るような音が聞こえてきた。
「お、帰ってきたか。」
町長がそう言って顔を向けると偵察から帰ったネンとアンニがうろの中に入ってきた。
「町長、報告に上がりました。」
ネンとアンニがうろの上部にいる町長を見上げてそう言うと町長は手を動かしながら大きめの声で聞いた。
「どうだった?」
ネンはアンニから降りて答えた。
「丸々一本虫の巣になっているサの古木を発見しました。」
それを聞くと町長の動きが止まった。
ネンが報告を続ける。
「親虫が少なくとも二匹、あと古木の下層に謎の空間ありです。」
町長は少し焦った様子で言った。
「感覚情報をまわしてくれ。」
「はいはい~。」
ネンはそう言って近くの木に触れた。アンニも続いて木に触れた。
町長は二徒から送られてきた感覚情報を受け取ると腕を組んでうつむいた。
町長がしばらく黙っているので不安になったネンは
「あ、あのー、何かまずいことしちゃいましたか?」
と尋ねた。
町長は頭を上げた。
「この間ガイラン(ガイランは国名。サイバはガイランの都市のひとつ)政府から同会(植獣同会の略称。植物も獣も住魔もみな同じであるという考え方を持つ集団でそれぞれを区別して考えることに異を唱え続けている。経済活動に植物を利用したり獣を住魔の僕の様に使っていることをよく思っていない。)の過激派がガイラン国内で破壊活動を計画している可能性が高いとの通知が入ってな。それで偵察を密にしていたんだがまさかサイバが・・・。」
ネンは手をポンと叩いて言った。
「だから事務の私たちまで偵察に駆り出されてたんですか~。」
町長は腕組みを解いて言った。
「過激派の仕業かどうかわからんが緊急町会を開く。街の長を全員集めたいんだが東地区の通信設備が害獣被害で使用できない。悪いが直接行って伝えてきてくれるか?」
ネンは「はいはい~。」と言ってアンニに飛び乗りうろから飛び出ていった。
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