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自作したものを色々載せていく予定です
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 まだ秋になって間もないというのにその土地には雪が降っていた。
 空全体に低い雲が張り昼だというのに少し薄暗い。
「なんで雪降ってんの・・?」
 黒い防寒着を着てフードを深々かぶり背中に登山用の大きなリュックを背負った男╼坂田はそんなことをぼやきながら隣にいる女を見た。
 女は赤い防寒着を着て登山用のリュックを背負いさらに腰には青黒い刀、そして二つの大きなスポーツバッグを胸の前でバツ印になるように交差させて両肩にかけ白い息を吐きながら黙々と歩いている。
 二つのスポーツバッグはもともと坂田が持ち歩いていたが、あまりに重かったためある朝そっと女のリュックと一緒に置いておいたら女はそれを自分の荷物と一緒に持って歩くようになった。
 防寒着は坂田が何とか着せたが女はフードをかぶってないので耳が真っ赤だ。
「ねーちゃん寒くないの?」
 坂田は赤い防寒着の女に問いかけたが反応はない。
 辺りは一面雪景色。
 周辺に立っている標識を見る限り県道と呼ばれていた道を歩いていたはずだが進むごとにの量が増え視界もうはほとんど真っ白でもうどこが道だかわからない。
 もともとこの辺りはほとんど雪が降らない土地だったため家が積雪に対応していないようでぽつぽつ建っている家は屋根が陥没したり家自体が潰れたりしている。
 仮に積雪に対応していたとしても雪下ろしをする人間がいなければそのうち潰れるだろうが。
「異常気象ってレベルじゃないな。昨日は半袖になりたいくらい暑かったもんな。」
 坂田はハッとして赤い防寒着の女の方を向くと
「なーカラちゃんカラちゃん。」
 と女が腰に差している青黒い刀に向かって話しかけた。
 しかし何も起こらない。
「カラちゃん聞いてる?」
 坂田がもう一度話しかけると青黒い刀から黒い霧╼カラタチが出てきた。
 黒い霧は男とも女とも言えない高い声で坂田に言った。
「その呼び方やめてくれないか?」
 カラタチはえらく不満そうだが坂田は大して気にせず
「それよりここなんで雪降ってるかわかる?」
 と聞いた。
 黒い霧はどうやって出したのか「はぁ。」というため息をついてから話し始めた。
「近くに神の気配を感じる。おそらくその神が原因だろう。」
 それを聞いた坂田が驚いた顔をして
「えっ、カラちゃんそんなことわかるの?」
 と聞くとカラタチはしばしの沈黙の後答えた。
 カラタチが人間だったらこの沈黙の間に呆れた顔でもしているだろうが黒い霧はもわもわ動くばかりだ。
「・・・どんな神のものでもわかるというわけではないが大きな力を持つ神なら少しぐらい離れていても分かる。」
「大きな力の神・・・。」
 黒い霧はボディランゲージのつもりだろうか、大きくもわもわと動いて言葉を返した。
「人間たちが強神や契り神と呼んでいるものだ。」
 坂田はフードを取った。
「ごめん、よく聞こえなかった。何が何だって?」
「・・・強神が近くにいるということだ。」
 坂田は少し顔をこわばらせて聞いた。
「こ、ここにいていきなり襲われたりしないの?」
 カラタチはまたもわもわ動きながら答えた。
「相手の方角はだいたいわかっているから大丈夫だ。それに主も神の気配を読めるはずだ。」
 坂田はほっとした顔をして言った。
「なら安心だな。ねーちゃんにそんな力があったとは。」
 少し強めの風が吹き坂田は「さむっ。」と言ってフードを被りなおした。
 カラタチは風に流され少し広がりながら言葉を返した。
「私も確信が無いが強神に向かってまっすぐ進んでいるところを見ると間違いないだろう。」
 坂田はまたフードを取った。
「えっ?なんだって?」
 黒い霧はぴたりと動きを止め
「もう嫌だ。」
 と呟き刀の中に戻っていった。
 直後赤い防寒着の女が持っている荷物を降ろし前方へ全力で駆けだした。
「えっ?」
 坂田は口をぽかんと開けて赤い防寒着を目で追いかけた。
 女はとても足が速くしかも雪が降っていて視界が悪いので赤色は4~5秒で見えなくなった。
「・・・。」
 何秒か立ち尽くしていた坂田だったがハッとして赤い防寒着の女が持っていた荷物を担ぐと、雪についた足跡を頼りに女を追いかけた。 
 進むごとに雪風が強くなる。  
 雪は10メートル先が見えなくなるくらいの吹雪に変わり、積もった雪に足を取られ体力を大きく削がれる。
 赤い防寒着の女はそんな何も見えない白銀の世界の中を駆けるように進んだ。
 吹雪はますます強くなり普通の人間であったら目を開けているのも困難だろう。
 女はしばらく進むと立ち止まり刀を抜いた。
 するとどこからか低い男の声が聞こえてくる。
「私に挑むか忌まわしきケダモノめ。その愚行、黄泉で悔いるがいい。」
 声がしゃべり終えるのと同時に女の足元の雪が隆起し雪の中から女の腹にめがけて拳が飛んできた。
 女は刀の柄で拳を受け止めると、拳の勢いを利用して後方へ飛びずさる。
 着地の直後刀の中からカラタチが噴出し
「この吹雪の中では体が散ってしまってうまく動けません故。」
 そう言うと周囲の雪に溶け込んだ。
「次奴が雪の中を通って来たら位置をお伝えします。あと奴は振動でこちらを感知しているようなのでかく乱してみます。」
 すぐに女の周辺でにギュギュギュという足音が聞こえはじめる。
「面倒な神を宿しているな。」
 低い声の主はそう言って雪の中から這い出た。
 低い声の主は全長は3メートルほどの巨人で皮膚は真っ青、衣服は腰巻だけでボディビルダーのような外見をしているが頭は小さく口のすぐ上に髪の毛があり目や鼻はついていない。
「だがそんなこけおどし通用せんわ。」 
 そう言うと青い巨人は大声で「ああ!」と叫び、雪の上をすべるように走ると女めがけて蹴りを放った。
 女からすると吹雪の中から突如足が現れた形となり反射的に刀の腹で受けたが態勢が悪く雪の上を転がるように飛ばされた。
 巨人はまた「ああ!」と叫び女の方へ向きなおると走りだし立ち上がった直後の女めがけて今度は右手で裏拳を放った。
 女は裏拳を刀の柄で受けたが位置が悪く刀を握っていた右手の薬指と小指がひしゃげそのまま後方へ飛ばされた。
 女は素早く立ち上がると周囲の雪を刀で激しく切り上げた。
 バオォンという音がして激しく雪が舞い上がる。
 女は横に移動しながら繰り返し雪を切り上げる。
 カラタチもそれに倣い巨人の周りで雪から勢いよく噴き出して爆音を響かせながら雪を噴き上げた。
 巨人はまた「ああ!」と叫んだが右を向いたり左を向いたりするだけで動かない。
「ぬぅぅ!」
 巨人がうろたえている間に周囲の爆音は徐々に巨人に近づく。
「そこか!」
 巨人は左側に腕を振り落とした。
 しかし手は空を切り何の手ごたえもない。
 直後、巨人は左足の太ももの裏に痛みを感じその場から飛びのいた。
 太ももを触ると傷は浅いが明らかに切られている。
「こざかしい!」
 巨人はそう言って右手を天に掲げた。
 すると雪と風がピタリと止む。
「これで音が明瞭に・・。」
 そこまで言って真後ろに女の気配を感じた巨人は上半身をねじり右手で後ろを払った。
 しかし女はその動きを読んでいたのか、巨人の右手の動きに合わせ上段に構えていた刀を振り落とす。
 ピュッ
 風を切るような音がして巨人の右ひじから先が胴体から離れ宙を舞った。
 女は刀を振り落とした姿勢そのままで巨人の方へ踏み込むと下から胴体めがけて切り上げる。
 巨人はすぐに飛びのいたが間に合わず右足のふくらはぎを切り裂かれ着地地点で尻餅をついた。
「ぐがぁぁぁ!」
 叫び声をあげる巨人。
 女は巨人の右半身側に素早く駆け寄ると上段から頭めがけて刀を振り落とす。
 巨人は左手で頭を守ったが腕は切り落とされ頭に刀の刃が刺さる。
 しかし左手で刀の勢いを殺されていたため刀は頭の骨で止まった。
「がぁ!」
 巨人は間髪入れずふり絞るような声をあげながら身をよじると、まだ動く左足で女を蹴り飛ばした。
 女は右わき腹に蹴りを直撃され激しく横に飛ばされ雪の上に転がる。
「早く逃げなくては・・。」
 そう言って巨人は雪の中に潜っていったが雪の中に体が沈みきった直後突然身動きが取れなくなった。
 そして耳元から男とも女ともいえないが聞こえた。
「瀕死のお前なら拘束するのは簡単だ。」
「おの・・。」
 巨人が何か言おうとした瞬間、刀が青い巨人の脳天を貫いた。
「あ~。ねーちゃんどこ行っちゃったんだよ。」
 とっくの前に女の足跡を見失った坂田は大量の荷物を担いだまま途方に暮れていた。
 雪風が強くなり膝下あたりまで積もった雪に足を取られ前に進むのもままならない。
「疲れた・・・。休みたい・・。」
 休めそうな場所を探して周囲を見渡すが雪の塊のようなものがぽつぽつあるだけだ。
 おそらくその雪の塊の中に民家か何かがあるのだろうがとても雪をかき分けて入っていく気にはならない。
「引き返そうかな・・・。」
 そう呟いて坂田がその場で立ち尽くしていると急に雪風が止んだ。
「あれっ?」
 視界がよくなり周囲の景色がハッキリしてくる。
 坂田が周囲をきょろきょろ見渡していると今度は空の雲が割れ光が差し始めた。
「強神が別の場所に移ったのかな?」
 そんなことをつぶやきながら何気なく光の差した方を見ると雪の中に赤い点が見えた。
「ん?」
 目を凝らして見ると赤い防寒着を着た女が雪の上に座っている。
「おっ!いたっ!」
 坂田はさっきまでの疲れも忘れ雪をかき分けて進みだした。
 女に向かって進みながら坂田はなぜか娘が家出したときのことを思い出していた。
 あの時娘は仕事が忙しくて娘の誕生日すら忘れていた坂田に怒って家出したのだ。
 仕事を早退しそこらじゅう駆けずり回っても見つからず、それでも探し続け夜中になって住んでいるマンションの駐輪場の隅っこでうずくまっていたのをマンションの住人が見つけたのだ。
 無事な娘の顔を見た坂田は心底ホッとしたが、つい「心配させるようなことをするな!」と声をあげて叩いてしまった。
 坂田は未だにそのことを後悔している。
(変なこと思い出しちゃったな・・。)
 わさわさと雪をかき分け坂田が女の元へ駆けよると女はスッと立ち上がりまた北の方へ向かって歩き始めた。
「えっ!?ちょっ・・、ちょっと休もうよねーちゃん!」
 女は坂田に見向きもせずスタスタと歩いていく。
「もう俺へろへろなんだよ~。」
 坂田は重い荷物を担いだまま女の後を追っていった。
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